関節の痛み
整形外科を受診される患者さんの中で最も多い訴えは「腰痛」です。
その次に「膝の痛み」「肩の痛み」などの関節の痛みが続きます。
変形性膝関節症(ひざ関節症)とは
人間は二本足で歩行しますので、両足の膝には負担がかかります。
この負担が長年にわたって続くことにより、膝関節の軟骨が弾力性を失い、すり減って変形して痛みが出てくることがあります。
膝関節を支える周囲の筋肉も衰えていくことにより、症状が悪化していきます。これが変形性膝関節症です。
動き始めや階段昇降での膝の痛みなどが初期症状で、進行すると日常生活に支障を来すようになります。
日本国内では、中高年の方を中心として約1000万人もの方が膝の痛みに悩んでおられますが、この大部分は変形性膝関節症によるものだと考えられています。
変形性膝関節症の主な症状
- 立ち上がるとき、膝に痛みがある
- 膝が腫れている(熱などを伴わないことも多いです)
- 膝が思うように動かない
- 歩きはじめなど、主に足を動かそうとするときに痛みが出る
- 膝に痛みが出ても、しばらく安静にしていると痛みがおさまる(初期)
- 安静時にも膝の痛みがおさまらない(末期)
- 正座や階段の昇り降りなどが辛い
- O脚が進んでいる など
変形性膝関節症の治療について
薬物療法
初期の段階ならば、主に消炎鎮痛剤によって痛みと腫れを取り除きます。
内服薬のほか、外用薬を塗布することもあります。
また、膝関節内にヒアルロン酸を注射することもあります。
加齢などによって減少したヒアルロン酸を直接注入し、痛みや炎症を抑えます。
これにより、関節の動きがよくなる、軟骨変性の進行を食い止める、などの効果も期待できます。
症例によってはステロイド薬を使用して痛みを取り除きます。
理学療法(運動療法、物理療法)
膝関節が変形する原因の一つに、膝の周囲を支える筋力の低下があります。
歩行訓練や太ももの筋肉を強化する大腿四頭筋訓練、関節の可動域を改善するリハビリテーションを行うことが効果的です。
当クリニックでは、理学療法士による運動療法を積極的に取り入れています。
膝の腫れの状態にもよりますが、膝周辺を温めて血行を良くする温熱療法も行ないます。
薬物療法と理学療法を組み合わせながら、手術をしない治療法(保存療法)をしっかりと行なって行きます。
変形が重度で痛みの改善がない場合、日常生活に多大な支障を来すような場合には手術が選択肢となります。
手術療法
主に、関節温存手術(高位脛骨骨切り術)と人工関節手術に分けられます。
活動性の高い若年の方には、関節温存手術(高位脛骨骨切り術)、中年以降の方には、十分な除痛と膝関節機能の回復,早期の離床と歩行訓練が可能となる人工関節置換術による治療が一般的に行われております。
院長は横浜栄共済病院で多数の人工関節手術の経験があります。お困りの際はお気軽にご相談ください。
変形性股関節症(こ関節症)とは
ひざ関節症と同じような軟骨のすり減りが鼠径部(脚の付け根)である股関節に生じると、変形性股関節症となります。
主な症状は、関節の痛みと機能障害です。股関節は鼠径部(脚の付け根)にあるので、最初は立ち上がりや歩き始めに脚の付け根に痛みを感じます。
関節症が進行すると、その痛みが強くなり、場合によっては持続痛(常に痛む)や夜間痛(夜寝ていても痛む)に悩まされることになります。
一方日常生活では、足の爪切りがやりにくくなったり、靴下が履きにくくなったり、和式トイレ使用や正座が困難になります。
また長い時間立ったり歩いたりすることがつらくなりますので、台所仕事などの主婦労働に支障を来たします。階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。
患者さんの多くは女性ですが、その場合原因は発育性股関節形成不全(もともと骨盤のかぶりが浅い方)が主なもので股関節症全体の80%といわれています。
最近は高齢社会となったため、特に明らかな原因となる病気に罹ったことが無くても年齢とともに股関節症を発症してくることがあります。
初期のうちでしたら、どのような使い方をすると痛みが強くなるか良く自分自身の関節の調子を観察していただき、"日常生活"と"痛みを悪くしない使い方"をよくマッチさせることが大切です。
痛み止めの薬を使うことも選択肢に入りますが、できれば調子の悪い時やどうしても負担をかけなければならない時に限定して使うほうが良いと思います。
またもし過体重があるようでしたらダイエットも考えてください。心理的抵抗がなければ杖の使用もお薦めします。
一方、痛みがあるとどうしても歩かなくなり筋肉が衰えてしまいますので、できれば水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)を週2,3回行っていただくと理想的です。
運動療法はその他の方法もありますが、運動療法はどうしても疼痛を誘発してしまう可能性がありますので、慎重に始めて徐々に強度を高めていくことがポイントです。
これらの保存療法でも症状が取れない場合は手術療法を考えます。
初期のうちでしたら自分の骨を生かして行う骨切り術の適応になりますが、関節の変形がすすんでいる場合は人工関節手術の適応となります。院長は、前方アプローチによる人工関節手術を専門に行っております。
最小侵襲手術 ~前方アプローチによる股関節の人工関節手術~
最近では、最小侵襲手術(MIS;Minimally invasive surgery)による人工関節手術が増えてきています。
人工股関節手術におけるMISは、今から約20年前に米国で報告されて以来、日本でも2003年頃より導入され、現在では広く施行される手術になってきました。
当時のMISは、皮膚の切開のみが小さく、筋肉は切離する"小切開手術法"で、股関節を後方に脱臼させて手術を行う「後方進入」が多く、臀部(おしりの方)に8~10cmくらいのキズで手術操作を行っていました。
後方進入での人工股関節手術では、しゃがみこむような、股関節を深く屈曲する動作で脱臼する危険があり、テーブルやイスなどの洋式の生活が望ましいとされていました。
一方、近年行われている最小侵襲手術(MIS)は、股関節を前方に脱臼させて手術を行う「前方進入」であり、大腿前面(ふとももの前の方)に8~10cmくらいのキズ(図②)で手術を行っています。
今までの"小切開手術法"と異なるのは、皮膚の切開が小さいばかりではなく、股関節周囲の筋肉をほとんど切離せずに手術が行える点です。
筋肉をほとんど傷つけずに手術が可能であるため、痛みも少なく、手術後に麻酔から覚醒したらすぐ車イスに乗り、歩行訓練が開始できます。
さらに、痛みが少ないため手術後の回復も早く、これまでは3~4週間の入院が必要でしたが、2週間程度の早期退院も可能になっています。
また、人工関節がはずれにくい(脱臼しにくい)ため、日常生活での制限は、ほぼなく、正座や和式トイレの使用など、今までどおりの生活が可能だという声も多数聞かれます。
ただし、この最小侵襲手術はどの方にも適応できるわけではなく、従来通りの後方進入手術の方がより安全な場合もあります。従来の手術法がよいか、最小侵襲手術 (MIS)がよいかはお気軽ご相談ください。
股関節の人工関節手術のみならず、高齢者に多いケガである大腿骨頚部骨折の人工骨頭手術においても、可能であれば上記のMISが行われています。